トレンドを見たら中々面白いことになっていたので、取り上げてみる次第。
規約変更
2024年11月15日発行分。
X社がポスト内容を機械学習・AI学習に用いる権利を持つようになる
ポストデータが何に利用されるのか
変更後のサービス利用規約(3. 本サービス上のコンテンツ)の文面から、
- Xのユーザーが自分のポストを世界中で閲覧可能にすることができる
- その代わりに、X社はそのポストの情報(テキスト、画像、動画、その他)を分析し、他の方法でXの向上に利用できる権利を有する
- 分析したものは、生成型か否かを問わずX社の機械学習・人工知能(AI)への使用・トレーニングに用いられる
となっていることが分かる。
X社の機械学習・人工知能(AI)への使用・トレーニングに用いて実用面で運用するものといえば、ほぼ「監視・規制・BAN系」だろう。
Xはシャドウバンをはじめとした規制には機械学習・人工知能を以前より用いている。
特に「肌色BAN」は機械学習で培った経験から、肌色系の画像データを含むポストをAIが自動的にシャドウバン・BANの対象とするもので、現状でも誤射がかなり多い。
さらに今年6月初旬では、Xが「アダルトコンテンツの規制緩和」を施行している。ラベル付けなどによる警告は以前と同様に必要であるが、自動フィルタリングを回避できる仕組みとした。
しかし、そういった緩和措置を含むAIによる判定・誤射はまだまだ不十分であるため、機械学習・人工知能側のさらなるデータ取集と改善が必要となってきているはずだ。
さらに、機械学習・人工知能(AI)への使用・トレーニングにおいて「生成型か否かを問わず」と記載されている。
現状のXから更に、生成型を用いるような機能を追加していく可能性は十分にある。
例えば、ChatGDP等を模したAIによるテキスト生成及びそれによるアシスト機能を実装する可能性はあるだろうし、簡単な画像を自動生成する画像生成機能「Grok(現在はver2)」の進化でコミュニケーションをより円滑にする、即ちXの利便性を向上させていくことは自明だろう。
加えて、プライバシーポリシーには、
- 第三者の協力会社: お客様の設定に応じて、またはお客様がデータを共有している場合、当社はお客様の情報を第三者と共有したり、第三者に開示したりすることがあります。オプトアウトしない場合、情報の受信者は、Xのプライバシーポリシーに記載されている目的に加えて、たとえば、生成型か他のタイプかを問わず、人工知能モデルのトレーニングなど、独自の独立した目的のために情報を使用する場合があります。
と記載されている。
X社が持つ「Grok」だけでなく、第三者の協力会社にもポスト情報を提供する場合があるとのことだ。
見方によっては、その情報の売買の可能性も考えられるか。
一応、「オプトアウトしない場合に情報を使用する場合がある」と述べているので、オプトアウトしていれば共有されることはないものと考えられるが、現時点では「第三者の企業への情報提供・共有を拒否する」旨の選択肢はXに存在しない。
そのため、今回のXの利用規約の変更は、「AIによる規制・BAN関連・監視・安全面をより高度にするための情報収集・機械学習の改善」「Grok2をはじめとしたXの自動生成機能の改善、新規導入」「ポスト情報について第三者の協力会社への提供・共有」を主目的としている、と見ることができる。
とはいえ、これらに関しては以前よりそう示唆する内容の規約が存在していたので、今回の改定は前述の目的を規約に明文化したという形だろうか。
データ共有(Grok)をオフにする機能の有用性如何
現在の状態では、データ共有(Grok)をオフにすることでXがポストやGrokのデータを読み取って学習しないように設定できる。
「設定ボタン」→「設定とプライバシー」→「プライバシーと安全」→「データ共有とカスタマイズ Grok」の順で進み、「ポストに加えて、Grokでのやり取り、インプット、結果をトレーニングと調整に利用することを許可する」のチェックボックスをオフにしておけば、現状は学習に用いられない。
これは2024年11月15日以降の規約改定でも有効とのこと。
しかし、それとは別にX社がユーザーによって提供されたテキストやその他情報を第三者の協力会社に提供・共有することについてユーザーが拒否することができる旨の記述が見当たらないので、これについて当日以降に拒否する選択肢をユーザーが持てるのかどうかは不明。
仕様変更
ブロック機能の緩和
これは主に日本人ユーザーの間でかなり批判的に受け取られている。
というのも、「事なかれ主義」「臭い物に蓋をする」という世界でも稀有な日本人特有の思考・行動パターンには、自分と相手の双方が分断されるブロック機能が大いにマッチしているからである。
日本ではそういった対応や姿勢が当たり前と思われがちだが、こういった運用方法や姿勢は世界的にはかなり異質。
しかし実際には、特に「叩き」「虐め」に関する事態の場合、対象のアカウントをブロックしたとしても、当事者が認知し得ない別のアカウント(裏垢)や全く別のアカウントの新設などにより監視されていることが殆ど。
人間は「叩き」「虐め」といった行為をする際には必ず快感ホルモンを分泌し悦に浸るようにできている生き物なので、ブロック機能ではまず逃れることはできない。
実際のところ、特に虐めが陰湿な日本人に対しては、「ブロック」という行為は相手にさらなる攻撃性を与えるものだと感じる。
やり取りや閲覧が拒絶・封鎖されたことが目視できるため、「こいつがブロックしてきた」という更なる叩きの手段を与えてしまう。
こういった相手にはブロックではなく「ミュート」が効果的だと思える。
ミュートにすればブロック同様にこちらから相手のポストは一切見えなくなる一方、相手は変わらずこちらを認識できるため、単純に無視されているのかミュートで拒絶されているのか分からないので、叩きにより発生する反応を得るという悦楽要素を損なわせることができる。平静を装って無視が一番良い。
それでも返信等が気になるようであれば、ポスト時に「返信できるアカウントを『あなたがフォローしているアカウント』『あなたが@ポストしたアカウントのみ』に設定しておく」設定を併用すれば良い。
とはいえ、Xの利用ユーザーの大半が日本人である限り、「ブロック」を必要とし続ける日本人ユーザーが殆どなのは変わらないだろう。
ここまでは「事なかれ主義」「臭い物に蓋をする」(所謂「避け」)の姿勢を述べたが、実際にイーロン・マスクが行おうとしている方向は「攻め」である。
イーロン・マスクは自身のXアカウントで下記の様に述べている。
「Xはプレイヤーvsプレイヤーのソーシャルメディア」とある。
つまりイーロン・マスクは、Xはユーザー間で戦うソーシャルメディアであるべき、即ち「X=論争型空間」という認識だ。
物事において徹底的に議論を交わすための空間・場とするべきだと述べている。
彼がこう述べる理由として、主に「議論の重要性」「利益の確保」の2つが考えられる。
まず1つ目の「議論の重要性」。
重い腰を上げにくかったり言い争いを避けたり、「臭い物に蓋をする」という思考の日本人には分かりづらいかもしれないが、喧嘩になっても積極的に建設的な議論を交わし続け結論に落とし込むこととその過程の有用な意見を遺すということはXのようなタイプのソーシャルメディアでは重要で、重要な意見が残ると後に活かすことに繋がる。
気に入らないことや意見の食い違いがあった場合、ブロックや茶を濁す形で〆るのが日本人だが、殆どの国は徹底的に言い争う。
建設的な議論による意見が蓄積されていくことにより、サービスや情報の質そのものが上がるため、社会的により貴重で重要なツールとして認識されるようになる。
有料ユーザーになれば文字数上限が大幅に増える機能も、この議論の重要性のためのものと思われる。
アメリカをはじめとした海外では「ディベート」が小学校の頃から授業内容として組み込まれ、徹底した論戦ができるように教育されている。
しかし日本にはそのような文化がなく、ディベートを学ぶ機会があったとしても「何故か司会が設けられ意見を互いに順番に述べさせ合い最後まで読めたら褒められて終了」という最早ディベートですらないお遊戯会のような何かを少々教え込まれる程度。
イーロン・マスクの「ブロック機能緩和による『攻め』のソーシャルメディア化」という考えが、「臭い物に蓋をする」「事なかれ主義」の日本人に理解されるのはかなり難しい。
そして2つ目の「利益の確保」。
「攻め」化で議論のポストが増えることで広告の表示回数も増加するので、結果的にX社の主に広告の収益が増えるということになる。
かつてイーロン・マスクがCEOに就任した理由は「表現の自由の確保」であった。
しかし、多くの投資家はそれにより特定のヘイト等が助長されると認識し、広告主から撤退していった。実際には特段増加したわけでもないので投資家が認識を誤った形ではあるが、結果的には当時2022年10月以降からX社のアメリカにおける広告主上位100社のうち75社が撤退する事態となった。
その結果、X(当時Twitter)は収入源の殆どを失い、有料サービスに重きを置くなどの課金(サブスクリプション)や有料会員の収益化プログラムを重視している。
しかし、2023年12月ではそれでもかなりの赤字のようで、2023年の広告収入は目標にしていた30億ドルに及ばない25億ドルに留まったとされている。
それだけではなく、Sensor Tower(米市場調査企業)によれば、Xにおけるアクティブユーザー数も減少の一途を辿っている。
何もXだけでなく他のSNSも減少傾向が続いている(=SNS疲れの進行)のだが、X買収直後(2022年~2024年)のアクティブユーザー数は、TikTokが約9%減、Instagramが約4%減である一方、Xは約23%も減少しているという統計が出ている。Xのユーザー減少率が非常に大きいことが一目瞭然の状態だ。
課金システム導入などの面による機能改良、そして後述の「インプレゾンビ」の放置などがユーザー減少の要因だろうか。
とにかく現状に残っているユーザーの意識を変え、より広告収入を得ることで赤字から脱却しようとしている姿勢は感じられる。
しかし、Xの利用者は日本人が最も多いため、彼らに意識改革をさせるというのはまず無理だろう。イーロン・マスクはXの利用ユーザーの大半を占める日本人が「事なかれ主義」「臭い物に蓋をする」ということを正確に認識できていないからだ。
「インプレゾンビ」を放置する理由もここにあると窺える
所謂バズったポストのリプライに何回も反応してきたり、同様の内容のポストを多数投稿する「インプレゾンビ」の存在がユーザーに鬱陶しがられている状態だが、X社はこれに対し力を入れて対応しようとしない。
それは、前述の通り広告収入が得られるからだろう。
例えインプレゾンビであっても広告の閲覧はしており、ポスト数が尋常ではないため一般ユーザーよりも遥かに広告収入をX社に発生させている。
根本的な対処をするには、収益化プログラムを改善するか、或いは廃止するかのどちらかになるだろう。
収益化を残すのであれば条件を一定以上の実績がある一企業や団体でもない限り不可能にするなどの規制は必要と思える。
だが、元々広告収入が激減している中で、彼らインプレゾンビを切って下手に広告収入を減らすよりも、ある程度目を瞑って広告収入を維持しておいた方が運営的には助かるのだろう。
しかしそれはユーザーが不快感を示す対応であるし、現にアクティブユーザー数は減少の一途を辿っている。
落としどころはかなり難しい。
利用者はXをどうするのか
引き続きXを利用し続けるユーザーが多くを占めると思われる
トレンドには「(別SNSへの)完全移行」「別SNSのサービス名(マストドン、Threads、Bluesky、Misskey、タイッツー等)」が上がり続けているが、結局は1週間程度で熱は冷め、殆どのユーザーはXに残り続け、別サービスに移行したユーザーも多くは戻って来るだろう。
移行騒動は今回だけでなく、過去にも何度か起こっている。
課金サービスの導入、シャドウバンや凍結の激化(ジャック・ドーシーがCEOの時代)など、過去に話題が出る毎に度々「別SNSへ移行しよう」という声が挙がりトレンド入りしていた。
しかしそれは1か月もふるわず、結局X(Twitter)が利用され続け現在に至る。
なんだったらその移行先の一つの「Bluesky」は、かつてTwitter(現X)でシャドウバンや凍結といった規制で暴れまわっていた「ジャック・ドーシー」が主導となって完成・運営しているサービスだ。Twitter時代に煮え湯を飲まされたユーザーらの移行先とはならない。
娯楽程度にしか使わないユーザーはともかくとして、商業における情報公開を主として利用する企業系アカウントはXから離れたり、Xと掛け持ちでアカウントを持ったりはしない。リスクが高いからだ。
そして多くの利用者は企業系アカウントの情報を得る目的があるため、企業系アカウントがXから撤退したり別サービスでアカウントを作って運営しない限りは移動しようとしない。
そのため「多くのユーザーがなんだかんだでXに居続ける」「他のSNSサービスがそれほど利用されない」といった大きな理由はここにある。
今回の機械学習・人工知能に関する規約改正やブロック機能の緩和が施行されても、これまでと同様にユーザーの利用手段が大して変わることはないだろう。彼らは動けないからだ。
どのSNSも最終的には機械学習・人工知能に取り込んで生成型に反映する
これは極めて当然だろう。
マンパワーだけではリアルタイムで膨大な投稿を管理し切れないので、機械学習・人工知能に監視・処罰の大部分を委任するしかない。そしてそのためには当然ながらユーザーの情報を吸収しなければならない。
利用ユーザーが増えれば増えるほど、機械学習・人工知能の採用・進化は重要になってくるし、利便化にあたって生成型へユーザーの情報をフィードバックする。
つまり、どのSNSに移行しても鼬ごっこが続くだけなのだ。
これは何もSNSだけでなく、GoogleやYahoo!といった数々の大手検索サービス、YouTubeなどの大手動画サイトでも同じ。
利用者から得られるビッグデータをAIが処理することで初めて機能する。
現代文明において、人工知能・機械学習は必要不可欠なものとなっている。
たとえ、もし仮にXからBlueskyへ大移動が起こったとしても、次はそちらで機械学習・人工知能に関する規約改定が発生するだけだ。
SNSが大多数ユーザー集中型というスタイルである限り、決して避けては通れない。
企業系は別のSNSへの移動や同時運用は極力したがらない
企業側も、SNSサービスが後発的に増えたり、いずれ機械学習・人工知能を前提にした機能を取り入れることを分かっている。
だが、下手に移行したり、サービス毎にアカウントを設けて管理の手間を増やすよりも、現行のXに留まっている方が遥かにコスト的にも楽で、且つ事故が少ない。
別サービスでアカウントを新設し複数同時運用をした場合、ポスト内容が間違っていた時には、全サービス分の投稿を修正したり間違っていた旨のポストについて謝罪などをしなければいけない。手間もコストも見合わなくなる。
自分は他サービスのアカウントを幾つか持っているが、個人ですら管理が非常に面倒だと感じる。
これを企業が責任を伴って管理運用するのは流石にリスクと手間が大きすぎる。
こういった理由から、企業はXに留まる方が楽。
企業の規模が大きければ大きいほど移動を躊躇う。
今後の在り方
自分の場合
今回の騒動を見て真っ先に思ったのは、「個人サイトを作っておいて良かった」ということ。
元々はPixiv(こちらもイラスト主体SNS)のAIに対する対応があまりにも杜撰であったために、有料会員(プレミアムプラン)もやめて撤退し、自前の画像ポートフォリオサイトを作ろうとした次第であったが、XをはじめとしたスタイルのSNSも徐々に廃れている印象があるので、思い切った判断としては間違っていなかったと思える。
これ以上、別のSNSサービスのアカウントを作ることはないだろうし、時間はある程度かかるだろうがSNS衰退・SNS疲れという時代の流れと共に徐々に個人サイト主体という過去の流れが戻ってきそうな感じはする。
SNS自体が廃れるまではなんやかんやでX主体であり続ける
利用者の原点である企業系アカウントがXに居続けるうえに動けない限りは、主体SNSは結局Xで続くだろう。
その他のSNSサービスが幾つも出ているが、移行先候補にはならないし主要SNSとなることもないと思える。
ユーザーはXに対し文句や不満を垂れても、自分達で何とかしようとしないために結局そこに縋るしかない。
彼らは新たなサービスを自分達で構築していくわけでも、Xを買収しようとするわけでも、個人サイトを作るわけでもなく、ただ利用し続けて不満を垂れる以外のことをしない。自分達で新たなる未来を作ろうとしない。そしてあるがままのXに居続ける。ある意味で日本人らしい。
自分は個人サイトを作り上げ運営している。
SNSの今後をある程度見据え、幾つかを既に打ち始めている。いつその日が訪れてもいいようにだ。
個人サイトであればWEBページの構築をまるまるバックアップしておけばサーバー変更時において特に問題なくスムーズに移行できるが、SNSはそれが効かない(別サービスで投稿のし直し等の手間がかかる)という点も大きい。
Xがサービス運営も厳しくなるその時こそ、SNS文化自体が一気に衰退していくのではなかろうか。
仮に、その時を好機として日本政府が日本主導のSNSを準備しておいて公開し、各企業に利用してもらう代わりに政府が助成金を与えるなどすれば、Xの日本人ユーザーの大半を日本手動SNSに引き込むことはできるだろうが、日本政府はデジタル庁があの体たらくなので恐らくそんなことをしないだろう。
個人サイトを潰し、自らも廃れ消えていくSNSの姿はまさに「大型ショッピングモール」
SNS時代は、「田舎に大型商業施設(ショッピングモール)がやってきて、個人商店を始めとした商店街を潰した後に撤退し、全てを無に帰す」という商業施設の負の実態とよく似ている。
個人サイトなどで盛り上がっていた時代を破壊してSNS主体の時代を作り上げたが、結局はそのSNSも廃れていく。
時代の流れも一つの原因だろうが、結局は一つの民間企業でしかないために広告などの収入源に頼らざるを得ず、そのためにノイジーマイノリティーの意見にも配慮し体裁を崩さなければならなく、結果的にそれがサービスとして自滅を迎えるという、個人サイト経営側からすればかなり惨めな状態に見える。
そうして個人サイトもなく、SNSもいずれ無くなる時代の先に何が起こるのか。
個人サイトが復活するのか、全く新しい形態のサービスが出てくるのか。