『黒執事 緑の魔女編』

アニメ

『黒執事 緑の魔女編』

今季放送されている黒執事のアニメ『緑の魔女編』。
去年春に放送された前作『寄宿学校編』の続編

つまり、寄宿学校編でアンダーテイカーが動く死体(ビザールドール)をより完成度の高いものに仕上げた後の話。

パラレルの第1期(天使編)・第2期(トランシー家編)、原作準拠の劇場版(豪華客船編)・第4期(寄宿学校編)のいずれもかなりオカルト・SF寄りのテーマが多かった。
しかし、今回の5期(緑の魔女編)では原作準拠の3期(ノアの方舟サーカス編)のように、かなりリアル路線のショッキング要素が強い

過去作の要素

第1期・2期(パラレル)

第1期(天使編)は不浄の存在を全て消し去ろうとする「天使」が敵となっていた。
舞台は原作と同じ近代イギリスだが話の流れは大きく異なる。
原作よりもかなり早い段階でアンダーテイカーが元死神であるということが明かされている
また、現在の動く死体(ビザールドール)の原案のような要素も天使が行使していた。

第2期(トランシー家編)は第1期の続編。
セバスチャン以外にもトランシー家に5人の悪魔が存在しており、悪魔vs悪魔の対決が始まった。
悪魔の契約者アロイスの存在性はシエルとは非常に対照的で、後述するがパラレルの話ではあるが、それが今回の緑の魔女編でより顕著に描写されていたように感じる。
最終エンドは「アロイスが悪魔ハンナに『セバスチャンが永遠にシエルの魂を喰えない』と願っていたことで、シエルが悪魔となってしまい、セバスチャンは人ではなくなったシエルの魂を喰えないまま彼の悪魔・執事として存在し続けなければならない」という壮絶なバッドエンドで、本編でも似たような罰がセバスチャンに課せられて終わりそうな感じはする。ファントムハイヴと関わった時点で悪魔でさえも永遠の地獄を味わいそう

後述の原作準拠のアニメ・劇場版を観ていると、パラレルだからといって侮れない作品だと改めて思える。
天使、悪魔を重点的に推しているのでオカルト・ファンタジー要素満載の作品群。

第3期・OVA・劇場版・第4期(原作準拠)

パラレルの第2期までとは異なり、原作準拠作。

第3期(サーカス編)では今作(緑の魔女編)で登場したジョーカードールをはじめとした「ノアの箱舟サーカス団」が登場。
サーカス団が来た場所の子供が行方不明になるという事件の調査。
サーカス団を取り仕切るケルヴィン伯爵の異常な嗜好とシエルの過去の一部を絡み合わせた苦悶の話。
そのうえ、子供達の行方不明の真相は、ケルヴィン伯爵の欲望のためではなく、ジョーカー達に義肢を提供していた先生がより精巧な義肢を作るための『材料』となっていたこと。これにはジョーカーも嘔吐し(原作。アニメでは義肢を投げつける)凄まじいショックを受けていた。
スネークを除いたサーカス団の所用人物らはファントムハイヴ家の使用人及びセバスチャンによって全滅させられている

OVA(密室殺人編)は第3期の続編。
ファントムハイヴ家での密室殺人事件を主として取り扱い、女王陛下に仕える部下のチャールズ兄弟も本格登場。
この作品で、生き延びたスネークがファントムハイヴ家の使用人として加わる

劇場版(豪華客船)はOVAの続編。
スネークを含めたファントムハイヴ家の者達が豪華客船に乗り込む。
その理由は、巷で噂になっている死者蘇生技術の真意を確かめるものだったが、その正体は元死神のアンダーテイカーがアウローラ学会と呼ばれる組織を利用して完成させた「動く死体(ビザールドール)」。
死んで魂が無くなった人間に対し、仮のシネマティックエピソードを魂の記憶の続きとして与えることで、疑似的に死体を動かすというもの。

第4期は劇場版の続編。
寄宿学校から戻りたくないデリックなどの生徒達の真意を確かめるべく寄宿学校に潜入したシエルとセバスチャン。
真相はデリックやアガレスは所業の悪さからP4に殺されており、これを隠蔽しようとしてP4がアウローラ学会に依頼、それによりアンダーテイカーがデリックをはじめとした死者を「動く死体(ビザールドール)」として復活させていた。
驚くべきは、豪華客船でのビザールドールよりも遥かに「人間らしさ」を持って進化していたというところ。これは、魂の続きに与えるものを仮のシネマティックエピソードではなく、死者の「生前の生への渇望」を用いたことでより高度な仕上がりになったという。

OVAは密室殺人の解決にあたっては悪魔の力をフル活用しており、劇場版と第4期は動く死体(ビザールドール)を取り扱っていることから、これらはかなりオカルト・ファンタジー寄り。

第3期のサーカス編が特に異色で、非常にドロドロとした感じが濃厚。子供達を誘拐するためにサーカスを用いて、その子供達が道具に転用されているという点はかなりリアル寄り
そういう意味でも、緑の魔女編とは共通点はあるのかもしれない。

今回の第5期(緑の魔女編)

前述の第4期(寄宿学校編)の続編。

動く死体(ビザールドール)が劇場版・第4期と連続で登場していることもあり、オカルト・ファンタジー要素がさらに強まっていくものかと予想していたが全く違っていた。
第3期(サーカス編)のようにかなり現実寄りでドロドロとした感じが濃厚な作品となっていて驚いた。
サーカス編はシリーズの中で特に好きなのでこういう感じ寄りになっているのは嬉しい限り。

ファンタジーを全開に漂わせていたが中身はガチガチの近代兵器要素

魔女の村と呼ばれる場所は人狼に守られており、その周囲にある魔女の森には人狼の放つ瘴気によって呪いが立ち込めている。
人狼から身を護るためには、月の加護を受けた護符を身に着けていく必要がある。

…といういかにもオカルトファンタジー全開の要素で前半は固められていたのだが、中盤になるにつれてこの謎が解明されていく。

魔女の森に蔓延している瘴気の正体は毒ガス「マスタードガス」(化学式:C4H8Cl2S)であり、人狼はガスマスク搭載の着ぐるみを着た人間でありドイツ軍の兵士
さらに魔女の村そのものが毒ガス研究のための国主導でのドイツ軍科学施設となっており、このエリアで人の位置を確認するために護符を「発信機」として「検知用レーダー」で監視していたサリヴァンが研究していた瘴気の正体も毒ガスで本人は知らずに騙されていた、という事実が明らかになった。
そのうえ毒ガス計画の主導者はサリヴァンの実の母親であり、サリヴァンは国にも母にも殺戮兵器を生み出すためだけに利用されていたという悲劇。

動く死体(ビザールドール)とは真逆の方向、即ちガチガチの近代戦争兵器要素で固めている。
黒執事の世界では近いうちに世界大戦が始まりそうな勢いの軍備。

過去キャラ再登場

これまでの作品で死亡したキャラクターが再登場。

生身の身体で再会したわけではなく、苦しむシエルの心の中で再登場した。
いわば、シエルの記憶の中に強烈に残っている者達の幻影のようなもの。

現れたのは特に現在のシエルを形作った者達であり、下記の通り。

  • マダム・レッド…第3期が始まる前に死神グレルによって殺され既に死亡。流れはパラレルではあるが第1期と概ね同じ
  • ジョーカー…第3期でセバスチャンに腕を切られ義肢の真相を知ってショックを受け多量出血で死亡
  • ドール…第3期で仲間達がセバスチャンとシエルに殺されたことを知って憎しみをむき出しにするが彼らに殺され死亡
  • ヴィンセント・ファントムハイヴ…シエルの父にして先代ファントムハイヴ家当主。寄宿学校編ではかつてブルー寮のP4だったことが判明。何者かに殺され既に死亡
  • シエルの母…ヴィンセントの妻。何者かに殺され既に死亡

因みにこの一連のシーンはかなり作画に気合が入っている。
ドールは何も喋らなかったが、その他のキャラは声付き。特にレッドとジョーカーは10年以上前の過去作の声そのもの

シエル、まさかの双子説濃厚

2010年から始まった黒執事のアニメを追い続けて15年、ここでシエルが『双子』の可能性が濃厚になってきたというまさかの展開。

似たような描写としては別作品『東京喰種』で、金木研がその内にもう一つの人格「佐々木琲世」を作り出していた経緯があったため、黒執事もそうなのでは…という可能性や、パラレルの第2期(トランシー家編)でシエルの身体にシエルとアロイスの魂が宿ることがあったので、最初は「魂を2つ宿す存在なのか?」と思っていた。

しかし、ジョーカー達が出てくるシーンでは2人目のシエルが血まみれになっており、またクレジットではシエルとは別の声優があてられているため、どうやら物理的に双子の存在らしい。
(魂が2つ、或いは二重人格なら、大体の場合は金木&佐々木、マリク&闇マリクのように同一声優)

また、既に死亡しているジョーカーやドール、ヴィンセントらと共に心の中に登場していたので、シエルの双子らしき兄弟は既に死亡している模様。

ジョン・ブラウンはやはり人外では…?

セバスチャンが女王陛下の下に瘴気(毒ガス)を帯びた枝葉を送り届けた後、成分解析が終わってシエルへ新たな命令を女王陛下が下すのだが、この伝文を任されたのが側近のジョン・ブラウン。

ゴーグルで常に目を隠しており、死神・悪魔・天使などといった正体をも隠しているのでは…と予測している存在。

このジョンだが、伝文(マスタードガスの化学式とサリヴァンの回収)にあたって、イギリスから魔女の村まで悪魔のセバスチャンのように一瞬で到達している。
さらに、ガスマスク無しで毒ガスの漂う魔女の森を通過しており無傷。(悪魔のセバスチャンですら毒ガスの影響を受けている)
これは最早明らかに人間ではないことの証左だろう。

その正体が死神なのか、それとも第二の悪魔か、はたまた天使なのかは分からないが…。
パラレルの第1期(天使編)では、ジョンの立ち位置にあった側近のアッシュは天使で女王陛下に協力していたが、最終的に見限っていた。女王陛下の側近の一人は人外であるということも、パラレルとはいえ当時既に決まっていた模様。

パラレル2作との類似点

シエルとアロイス

緑の魔女編で毒ガス(マスタードガス)と荒療治を受けたシエルは、一時的に精神的にダメージを負った。
この無様な醜態を晒した際、悪魔のセバスチャンに見限られて契約の途中で魂を喰われかけている。

実はこのようなシーンはこれが初めてではなく、パラレルの第2期(トランシー家編)で、シエルとの一騎打ちで重症を負ったアロイスも、自分が契約している悪魔クロード・フォースタスの前で醜態を晒している。

緑の魔女編でのシエルはジョーカーやドール、レッド、双子と思われるもう一人のシエルと自分自身に自らの存在意義を突き付けて再び歩み始めることで、セバスチャンの契約の途中破棄を拒絶できた。
しかしトランシー家編のアロイスは、最後までクロードに縋って惨めったらしい醜態を晒し続け、クロードに見限られた。

こういった2つの作品の両者の描写から、シエルとアロイスは改めて対照的な存在であると感じられた。

そしてそんな対照的な二人は、第2期(トランシー家編)においては実質的に惨めったらしい醜態を晒したアロイスの一人勝ちであった。(悪魔なのに愛を知ってしまったハンナの存在が大きすぎる)
原作サイドのシエルはどのような結末を迎えるのか。

ジョンとアッシュ

先述の通り。

原作のジョン、パラレル第1期のアッシュはどちらも女王陛下の側近の一人。
そして、両者ともに人外という点で共通している。
アッシュは天使であり、ジョンも緑の魔女編での描写から明らかに人外だろう。

毒ガス『サリン』登場

マスタードガスだけでなく、日本では悪名高い毒ガス兵器「サリン」も登場してしまった。

ただサリンに関しては日本で生まれたものではなく、史実においては「ドイツが1936年にサリンを造り出した」とされており1902年の時点でサリンの化学式は既に存在していたという。
世界にサリンの存在が流れ出したのは第二次世界大戦(1939年勃発)の後であるとのこと。なお、世界大戦の中でサリンは製造されていたものの使用はされていない。

そのため、黒執事の時代でドイツ軍が毒ガスを研究してサリンを造り出すという大まかな流れそのものは史実に沿っていると感じられる。
また、史実に於いて第一次世界大戦では初の毒ガス兵器をドイツが使用していたことからは、サリヴァンの両親をはじめとしたドイツ軍科学者達がさらなる毒ガス兵器を造り出そうとしていた行動も納得できる。

ただ、サリンという名称の由来自体は黒執事は作品独自のものとなっている。
天才頭脳を持つ緑の魔女「サリヴァン」という名と毒ガスの存在の時点で、サリンという存在はある程度予想できたのかもしれないが、自分は予想できなかったので「サリン」の名が出てきた時は昨今の作品には無いような驚きが起こった。

因みにSNSを見ていると、原作を既に読んでいたユーザーらは「アニメで『サリン』の名は使えるのか…?」と危惧していたようだが、アニメでもしっかりサリンの名が使われたため自分とは別のベクトルでビビっていたらしい

サリンに関する一連の流れは第3期(サーカス編)とやや酷似している。
今回はサリヴァンが親に騙されサリンを作り出すよう仕向けられていたのに対し、サーカス編ではジョーカー達サーカス団が父のために子供達を誘拐していたと思いきやその子供達は先生の作る義肢の材料の確保をさせられていたという形。
そして、サリヴァンは(女王陛下の命もあり)シエル達に救出されている一方、ジョーカー達はファントムハイヴ家によって皆殺しにされるという末路を辿った。

現段階の黒執事どころか今季で一番面白い

これらの要素から、これまでの黒執事シリーズの中ではダントツで面白い。
ただ、これらの要素に関してはあくまで「前作までの作品を大方理解している」ことが前提となるが…。

また、今季のアニメ作品の中でもダントツで出来が良いように感じられる。
オカルトから近代兵器への誘導、心情描写はかなり上手く、他の今季一部アニメもちょくちょく観てはいるがここまで良い意味でビビらせて驚かせてくれる作品は他にない

癒し要素としてもサリヴァンが普通に可愛くて大胆であり、その彼女にもドイツ軍、しかも自分の母親に良いように利用されているという悲劇的な背景があるなどで、作品内での捨て要素が無い

というより原作がすげえ

寄宿学校編でもそうだったが作画が毎回毎回綺麗というのもある。
セバスチャンの特徴的な悪魔歯なんかは結構丁寧に描かれている感じがある。

余談

エリザベスかサリヴァンか

断然サリヴァンが好き

歴代好きなキャラ

好きな順に。

  1. ジョーカー(第3期:サーカス編。男)
  2. サリヴァン(第5期:緑の魔女編。女)
  3. ドール(第3期:サーカス編。女)
  4. スネーク(第3期:サーカス編~。男)
  5. ジョアン・ハーコート(第4期:寄宿学校編。男)
  6. アロイス・トランシー(パラレル第2期。男)
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